Cause ≪痛みの原因-当院の考え方-
1 入出力反応系という視点
人の生理反応はすべて「入出力の関係」で成り立っています。
たとえば、口の中に食べ物が入る-入力-、すると唾液が分泌されます-出力-。目に光が入る-入力-、すると瞳孔が収縮します-出力-。寒さを感じる-入力-、すると鳥肌が立ちます(立毛筋が収縮)-出力-。
このように何らかの情報を感覚受容器(センサー)がキャッチすると、それに対して必要な反応を出力させるという、いわば「入出力反応系」によって生命現象は維持されています。
もし生理学の本が手元にあれば、パラパラとページをめくってみください。そこに書かれてある内容は、ほとんど全て「入出力の関係」を述べているに過ぎないということがお分かりいただけると思います。
入出力反応系-人の生理活動-は、情報を受け取る感覚受容器(センサー)がなければ成立しません。つまりセンサーという存在がなければ、ほとんどの生理現象は起き得ないのです。こうした視点から人の身体を眺めていくと、その内外に無数のセンサーが備わっていることが分かります。
生体センサーはその形状によって4つのタイプに大別されます(下図) 。
Aのタイプは痛覚や温度覚などを、Bは触覚・振動覚・圧覚などを、Cは聴覚や味覚を、Dは嗅覚をキャッチします(後述する関節センサーはAおよびBのタイプです)。
脳(約1.4㎏)や肝臓(約1.5㎏)より大きく重たい人体最大の臓器である皮膚(表面積1.6平方メートル・重さ3㎏弱)には、外界の情報をキャッチするためのセンサーが張り巡らされており、いわばセンサーの集合体のような臓器です。
消化器官においても、飲食物の化学情報やそれによる粘膜変化などを感知するため、皮膚同様に無数のセンサーが内蔵されており、いまだ解明されていない反応系も少なからず潜在するといわれています。
それでは運動器官(筋肉や関節)の場合はどうでしょう。
意識的に身体を動かす際は、脳からの指令で筋肉が収縮して関節が動きます。意志という信号の入力を受けて、筋肉の収縮という出力が成されるので、これも入出力反応系といえるかもしれません。ただし、この現象はかなりマクロな生理反応であって、実際にはもっと繊細なシステムが包含されています。
たとえば筋肉が強く収縮し過ぎると、当然組織に過大な負担がかかります。そうならないように、筋肉が自らの緊張レベルを感知して、瞬時にブレーキをかけるシステムがあるのです。反対に緊張が弱過ぎてもいけないので、あらゆる状況の中でその瞬間ごとに緊張レベルを変えるという、自らを微調整するシステムを持っています。
筋肉の緊張レベルを感知-入力-、その情報を脊髄に伝える-出力-、するとその情報を脊髄の前角細胞がキャッチ-入力-、α運動ニューロンが信号を送る-出力-、そして筋肉が適切な緊張を維持(これらの情報は意識に上らない感覚情報として中枢に送られ、同時に自律神経も深く関与します)。
このようにして、いわば「入出力の連鎖反応」というものを24時間休むことなく続けているのです。こうした隠れたシステムがあるおかげで、私たちは意識することなく姿勢を保つことができます。
もしこのシステムがなかったら、座っている時も立っている時も、常に自分の身体のバランスを意識しなければならず、自らの筋肉の緊張と緩解を四六時中考えなくてはならないというたいへん不自由な生き物になっていたでしょう。この入出力反応系があるおかげで、私たちはテレビを見たり読書したり会話することに集中できるのです。
2 関節センサーによる防御システム
こうした運動器の反応系にはもちろんセンサーが関わっています。筋肉の緊張レベルを入力し、それに見合った適切な緊張を出力させるためには、センサーの存在が不可欠です。
それではそのセンサーは何処にあるのでしょうか?生理学の教科書には筋肉自身の中にあると書かれています。筋肉の中に筋紡錘というセンサーが内蔵されており、それが自らの緊張をキャッチして、その都度適切な出力を促していると記されています。
しかし、近年「関節神経学」という学問の研究が進んだことにより、関節内部にもそうしたセンサーがあることが分かりました。しかもそのセンサーによる反応系は、筋紡錘よりも強い影響力を持っており、かつ極めてデリケートなシステムであることが分かったのです。
そして何よりも重大な事実はこの反応系にわずかでも異常が発生すると、運動器全体にいろいろな障害が起こってくるということです。センサーそのものに異常が起これば入力障害が起こります。筋肉の緊張を過大に感知したり、その逆になったり。
その結果として出力が強過ぎれば筋肉の過緊張(張り・凝り・つっぱり感など)が起こり、反対に弱過ぎれば低緊張(脱力・亜脱臼・筋力低下など)が起こります。
筋肉と関節を比べたとき、どちらのほうがより複雑な構造をなしているかと問えば、それは「関節」です。例えば膝であれば、関節包(関節を包む膜)、靭帯、軟骨、半月板などが複雑に入り組んでおり、とても繊細な構造を有しています。
関節は自らを守るために自らの中にセンサーを配し、自らに加わる張力・圧力、動かされた距離・方向、加速度などをキャッチし、瞬時に筋肉の緊張を変えるというシステムを持っているのです。
つまり筋肉の緊張をきめ細かくコントロールするシステムは、筋肉を守るためというよりもむしろ関節を守るためという意味合いのほうが強いのです。損傷を受けたときの人間へのダメージの深さを考えれば得心がいきます。
関節の構造的な複雑性も相まって、結果的に筋肉よりも手厚く保護される機能を有することになり、その態様はまさしく超精密機械のようになっているのです。
四足動物が多い自然界にあって、技巧性を優先させるため前足を「手」に進化させ、安定性と機動性を捨てて、あえて不安定な二足歩行を選んだ人間は、関節の機能をより精密なものに進化させたと考えられます。
3 痛みはシステム異常を知らせるサイン
さて、ここからは痛みの話です。既述のとおり「運動器には精密な入出力反応系がある」ということはお分かりいただけたと思います。では、痛みは何故起こるのでしょう?関節内センサーとの関わりとは?
これらの疑問に対しては、時間を遡って想像力を働かせてみたいと思います。そうすることで答えらしきものが見えてきます。
原始時代-家族単位での移動と狩猟によって生活を支えていたであろう当時-、人間の生命を脅かすものは何だったのか?もちろん外敵の問題が主であったでしょうけれど、ここでは肉体的な機能という視点で捉えてみます。
まず生命を維持するためには食べなくてはなりません。歯に何らかの問題が発生して食べるという行為ができなくなれば、生命が絶たれます。現代人には入れ歯があり、さらには高カロリー輸液や胃ろうという手段もあります。しかし、当時はもちろんそんなものはありません。歯の障害から咀嚼不能に陥った人間に待つのは死のみです。
したがって、歯に問題が発生したならばいち早くその前兆を知る必要があります。その危険を知らせるために痛みという感覚が生み出されたのです。今そこにある危機を伝えることこそが痛みの存在理由でした。そのため、歯の痛みというのは非常に強い感覚として備わっているわけです。
次に動物本来の特性を考えてみます。読んで字のごとく我々は「動く生き物」です。多くの野生動物がそうであるように、原始時代の人間にとっても「動けなくなる」ということは死を意味したでしょう。
もし足を骨折して動けなくなったら、数日間は家族や仲間が食事を運んでくれたかもしれませんが、一つの場所に留まっていられる時間には限りがあったはずです。そもそも外敵に襲われたときは一貫の終わりでしょうし、状況によっては看病に当たってくれている家族や仲間をも危険にさらすことになります。
原始時代の人間にとって「動けなくなる」ということは致命的な状況であったと考えられます。しかも先述のとおり人類は超精密な関節機能を持っています。その精密機械にわずかでも不調が発生すれば、やはり歯の場合と同様にいち早くそうした事態を察知する必要があります。
不安定な二足歩行と高度に発達した手の動きを可能にしているのは、超精密な関節機能です。そこにはまさしく芸術的とも言えるほどの繊細な入出力反応系が備わっています。その反応系にわずかでも異常が起こり、運動器の不調を許せば、必然けがをしやすくなります。
急峻な崖を登っている時、流れの速い川を渡る時、外敵からの襲撃をかわすとき、肉体の反応が零コンマ何秒でも遅れれば、致命的なけがを負う確率が高くなります。反応の遅れは命取りになるのです。
既述してきた関節を守るための「センサーによる入出力反応系」は、すなわち生命を守るシステムでもあるのです。そのシステム異常を知らせるサインが「痛み」であり、時に「しびれ」であったりするのです。場合によっては「凝り・張り・脱力・疲労感・筋力低下など」さまざまなサインとなって現れてくるというわけです。
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